障害がある方の権利擁護が求められる中で、障害がある方自身の自己決定に基づいて支援することは大前提だと考えられます。
しかし、障害がある方の中には自らの意思を表現することが難しい方もいらっしゃいます。
そのために、意思決定支援が必要になります。
この記事では厚労省から出された「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」をわかりやすく解説していきたいと思います。
障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドラインについて
ガイドラインが目的としてる、障害がある方の意思を尊重した質の高いサービスの提供につながれば幸いです。
1.意思決定支援の定義
意思決定支援は、下記のように定義されています。
自ら意思を決定することに困難を抱える障害者が、日常生活や社会生活に関して自らの意思が反映された生活を送ることができるように、可能な限り本人が自ら意思決定できるよう支援し、本人の意思の確認や意思及び選好を推定し、支援を尽くしても本人の意思及び選好の推定が困難な場合には、最後の手段として本人の最善の利益を検討するために事業者の職員が行う支援の行為及び仕組みをいう。
引用:障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン
2.意思決定を構成する要素
a.本人の判断能力
障害がある方の判断能力は意思決定に大きな影響を与えます。
本人の判断能力をきちんと把握していないと、間違った形で支援してしまうこともあります。
どういった方法なら理解できるのか、
どういった方法なら判断できるのか、
それらを把握した上で支援することが大切です。
本人に合った支援をするために、アセスメントが大切
b.場面
生活は意思決定の連続です。
何を食べるか、何を着るか、どこに行くか、何をしたいか、
私達が日常の中で無意識に行っていることも、全てが意思決定です。
ささいなことでも、障害がある本人の意思を常に尊重し、意思決定の経験を積み上げることで、それは成功体験となり、自分で選べたという自信に繋がります。
生活の場を決めるなど大きな選択をするためにも、日常の意思決定支援を丁寧に
c.人や環境による影響
意思決定支援は関わる人や、環境に大きく影響を受けます。
少し考えてみましょう
初めて合った知らない方に自分の正直な気持ちを話したいと思うでしょうか?
めんどくさそうに話を聞いている方に自分の気持ちを話したいでしょうか?
無理ですよね。
意思を表現するためには受け止める側の姿勢が求められます。
また、環境面も大切です。
慣れない、落ち着かない環境では自分の意志を出すことが難しいことも多いでしょう。
また、知的や発達等に障害がある方は想像することが苦手なことも多いです。
そうした場合、説明だけでなく実際に経験することが大切です。
実際に体験した上で、自分の意志を決定するといった過程が意思決定支援には重要です。
人:関わる人との信頼関係 & 意思を尊重しようとする姿勢
環境:慣れた環境 & 選択できるだけの経験
3.意思決定支援の基本原則
a.自己決定が出来るように最大限の工夫を
自己決定をする際に、説明や選択の方法は障害がある方本人が理解できるように工夫して行うことが重要です。
言葉だけでなく、写真や絵などを使ってわかりやすく説明したり、
選択肢が多くて選びにくい場合は、選択肢を絞ったり
いろいろな工夫をして選択できるようにすることが大切です。
b.本人の選択を尊重する
支援する立場から考えると、「それはどうだろう?」と思われる選択でも、
誰かに迷惑をかけないのであればその選択を尊重するという姿勢も大切です。
例えば

よし、仕事して給料をもらったから、パチンコに行こう!

せっかく稼いだお金なのに、パチンコに使うの・・・?
もっと大切なことに使ったらいいのに・・・

支援者の立場だと思わず上記のように考えてしまうこともあるかと思います。
でも本人がパチンコが好きで、それにお金を使いたいのであれば、その意見を尊重した上で
どのくらいのお金ならパチンコに使っても大丈夫かを一緒に考えることも大切かと思います。
人生は本人のものです
支援者の目線でリスクばかりを考えて、制限をかけ過ぎないように注意が必要です。
c.本人の自己決定や意思確認がどうしても困難なとき
障害の程度によっては、どうしても本人の意思を確認することが困難なときもあります
そうした場合でも、家族や支援者など本人をよく知る人が集まって、これまでの本人の生活の様子、表情、行動などの情報を集め、根拠を持ちながら本人の意志を推定することが必要です。
意思を表現できないから、意思がないわけではありません。
どんな人にも意思はあります。
それを汲み取るのも意思決定支援です。
4.最善の利益
どうしても本人の意志を推定することが難しい場合は、関係者で話し合って本人にとって最善の利益を考えて、関係機関で決定をしなければいけないこともあります。
この「本人にとっての最善の利益の判断」は最後の手段です。
(1)メリットとデメリット
いくつかの選択肢がある中で、本人の立場に立った時どんなメリットが有るか、どんなデメリットが有るかを可能な限り集めて検討します。
(2)相反する選択肢の両立
どちらかを選ばなければいけないときも、その選択肢が両立する可能性がないかを考えます。
健康的な制限がある方でも、ただ制限するのではなく
運動も組み込めば少しは食べても大丈夫か?
食材を変えて同じような味を提供できるか?
などいろいろな視点で考えることが大切です。
(3)できるだけ自由が制限されないように
住む場所を選択するような場合は、選択肢の中から本人の制限がより少ない方を選択するなど、出来る限り本人の自由が制限されないように選択します。
5.事業者以外の視点からの検討
意思決定支援を行う立場の多くは事業所の立場です。
事業所は支援を行う立場で多くの情報と本人への深い理解があるため意思決定支援には欠かせない存在ですが、事業所の立場が意思決定支援に影響を与えることも0とは言えません。
そのために、ご家族や知人、成年後見人、ピアサポーター、相談員等いろいろな方が本人の立場に立って、幅広い視点から本人の意思決定支援を行うことが大切です。
まとめ
障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドラインについて解説させていただきました。
障害がある方は「支援を受ける立場」ではなく「支援を選んで活用する立場」です。
自分で支援を選んで活用するためには、本人の意志が欠かせません。
行っている支援が、障害がある方にとって本当に良い支援であるために、常に意思決定支援を丁寧に行っていきましょう。
意思決定支援の具体的な枠組みや流れは↓こちらで解説しています。