令和3年5月に、参議院本会議で可決した改正障害者差別解消法。
そこでは、「合理的配慮」の提供を民間企業に義務付けるとされています。
施行は令和6年4月から。
これまで努力義務だった部分が義務化されるということで、ぜひご理解いただけるよう合理的配慮についてわかりやすく解説していきたいと思います。
合理的配慮ってなに?
合理的配慮をわかりやすく一言で言うと
「障害の有無によって出来ることが変わらないように、お互いの事情を理解しながら、無理のない範囲で出来る対応をしていきましょう。」
ということです。
と言ってもこれだけでは、わからないと思いますので、法的な根拠も含めて具体的に説明していきたいと思います。
合理的配慮の法的根拠
合理的配慮は、平成28年4月1日から施行された障害者差別解消法の中で示されています。
この法律は障害を理由にした差別の解消や、国・地方公共団体・民間事業者において障害を理由に差別されることが無いようにする措置について定めて、すべての国民が障害の有無によって分け隔てなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目的としています。
障害者差別解消法についてはこちらの記事↓で詳しく解説しておりますので、ぜひ御覧ください。
差別解消法の中で障害を理由とする差別の禁止ということで、
差別的取扱いの禁止
差別的取扱いの禁止は、障がい者であることのみを理由に、正当な理由なく障害者に対する商品やサービスの提供を拒否する(権利利益を侵害する)ような行為を禁止するということです。
合理的配慮の提供
合理的配慮の提供は、障害者から社会的障壁の除去を必要とする意思表明があった場合、実施に伴う負担が過重で無ければ、障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならないということです。
が示されています。
合理的配慮はこれまで国等の行政機関等では義務化されていましたが、民間事業者は努力義務とされていました。
令和3年の法改正でこの合理的配慮が民間企業等も義務化されました。
※施行は令和6年4月からとなります。
差別的取扱いの禁止は行政機関、民間事業者関係なく最初から「義務」です!
対象
障害者
障害者手帳を持っている方に限りません。発達障害や高次脳機能障がいを持つ方、その他難病に関する障害など生活の中で制限を受けている方が対象です。障害児も含みます。
民間事業者
商業その他の事業を行う者。事業規模を問わず、営利、非営利も問いません。
合理的配慮の主な種類
合理的配慮にはいくつかの種類があります。
場面等で配慮する内容も変わります。
物理的環境への配慮
- 携帯型のスロープを渡して段差を解消する
- 段差超えを手助けする
- 高いところにある商品を取って渡す
物理的環境への配慮はわかりやすい面もあるのではないでしょうか?
車椅子の方が少しの段差などでも超えるのが大変なときに、車椅子を押してサポートしたりするイメージです。
コミュニケーションの配慮
- 筆談や簡単な手話による意思伝達
- 文字情報の読み上げ
- ゆっくり話したり、わかりやすい表現を使った会話
障害の種類によってはコミュニケーションに苦手さがあります。
聴覚に障害があって音声言語でのやり取りが難しかったり、難しい表現がわかりにくい方もいます。
できるだけその方にわかるコミュニケーション手段が必要ということです。
ルールなどの柔軟な変更
- 研修会などにおける休憩時間の調整
- 障害特性に応じた手続き順や席の確保
障害特性によっては、事前に定められている様々なルールに困難さを感じることもあります。
例えば、集中できる時間が少し短い方が研修会に参加する際に他の参加者のことも考えた上で、少しこまめに休憩を取るようにするなど
「ルールだから!」という一方的な話だけでなく、少し考えるだけで配慮できることもあるかと思います。
合理的配慮を行うために
合理的配慮を行う上で、いくつかのポイントがあります。
障害者の意思表明
障害者から何らかの意思表明があった場合に、合理的配慮の提供をするということになっていますが、意思表明が出来ない可能性もあるので一緒にいる介助者等からの意思表明も含んでいます。
障害を持った方は、自分の意志を出すことをためらってしまったり、障害によって出すことが困難だったりします。出来れば障害を持った方の困りごとを聞く姿勢を持っていただけるとありがたいなと思います。
過重な負担にならないように
合理的配慮で求めているのは対応可能な範囲のものです。
例えば、一人でやっている料理屋さんで忙しいタイミングに、車椅子の方が来たからと言って料理を作るのを止めてサポートできるかと言ったら難しいですよね。
建物がバリアフリーになってないからといって、お金をかけてすぐスロープを作れと言われても無理ですよね。
事業者側にも、負担になりすぎない範囲での対応を求めています。
合理的配慮に大切なこと
合理的配慮について解説してきましたが、合理的配慮を考える上で一番大切なことは「お互いのことを考えながら、いい方法を考える」ということです。
例えば
俺は一人で料理屋をやっているんだ。店も昔からやってるから段差もある。
忙しい昼食時に、車椅子の方が来て「段差を超えるための手助けをしてくれ」と言われても無理だよ。
お客さんを待たせないように、注文をさばくだけで手一杯だ。
そうですね。
お忙しいときに調理の手を止めて店の外でサポートすることは難しいですよね。
では、どうしたら車椅子の方もお店に来やすくなるでしょうか?
そうだなあ。まあ忙しいのは昼の11:30〜13:30ぐらいまでだから、それ以外の時間だったらお客さんの数も少ないし車椅子を押す手伝いぐらいはできるよ。
あと、ウチの店は工事の現場の方とかも多く来るんだよ。力持ちのお客さんも多いから俺が手伝えないときは、お客さんにお願いできるかもしれない。気のいいお客さんが多いからね。常連さんに声をかけておこうかな?
車椅子の方もうちの店に来たいって言ってくれているんなら、できることはやりたいな。
色々と考えていただき、ありがとうございます。
時間を少し調整することでお店に来れるようになったり、
場合によっては店主さん以外にもお手伝いいただけるのであればすごく頼もしいです。
いかがでしょうか。
上記のやり取りのように、少し考えると大きく何かを変えなくても出来ることは考えられるかと思います。
障害を持った方は社会の中でいろいろな困難を抱えています。その困難は社会のあり方の中で生まれてくるもので、社会のあり方が少し変わるだけで、困難ではなくなることも多いです。
しかし、そうは言っても事業所側にもいろいろな事情があります。人数や建物、予算などの事情がある中で頑張って事業を行っている。
だからお互いの事情を理解した上で無理のない範囲で出来る対応を考えることが必要だと思います。
障害がある方も、「困るからなんとかしてくれ」だけでなく、今出来る範囲について事業者の事情にも理解を示す。
事業者も「出来ない」という思い込みを持たず、障害を持った方の困りごとをなんとか出来ないかと考える。
お互いがお互いの立場を理解して、より良い方法を考えましょう。
まとめ
合理的配慮について法的根拠も含め解説させていただきました。
最初にお伝えしたように合理的配慮は「障害の有無によって出来ることが変わらないように、お互いの事情を理解しながら、無理のない範囲で出来る対応をしていきましょう」ということです。
誰もが安心して暮らせる社会であるために、合理的配慮を理解して出来ることから始めていきましょう。
最後に
障害者差別解消法では国や地方公共団体に「障害を理由とする差別に関する相談窓口の設置」も求められています。
合理的配慮についてわからない点があれば、それぞれの県等の相談窓口に相談してみてくださいね。