令和5年3月30日に「強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会」の報告書が出されました。
検討会では強度行動障害を有する方の支援の現状の整理と地域における支援体制の在り方の全体像を示して、さらに支援体制構築に向けた今後の道筋を示しています。
この記事では、報告書の内容をわかりやすく解説します。
強度行動障害という困難なケースであるために、支援が行き届かず本人とその家族が孤立してしまうこともあります。
必要な支援を理解し、自分たちの地域で出来ることを考えてみましょう。
1.強度行動障害とは「状態」を指す言葉
強度行動障害とは
自傷、他害、こだわり、もの壊し、睡眠の乱れ、異食、多動など本人や周囲の人の暮らしに影響を及ぼす行動が、著しく高い頻度で起こるため、 特別に配慮された支援が必要になっている「状態」
を指す言葉です
これまでの支援から重度・最重度の知的障害を伴う自閉スペクトラム症の方が、強度行動障害の状態になる事がみられ、自閉スペクトラム症と強度行動障害の関連性は高いと言われています。
おおよその人数としては全国で65,000人を超えています。(令和3年10月時点での強度行動障害関連の支援や加算の対象者数)
検討会の中では「強度行動障害」という状態像を示す言葉についても不正確な理解や、悪い印象を与えることが懸念されるという意見も出ており、共通の概念となるために強度行動障害という言葉自体も検討されていく可能性があります。
2.支援の基本は特性理解とアセスメント
支援の基本は
①障害特性の正しい理解
②アセスメントに基づく根拠ある標準的な支援
※標準的な支援とは~個々の障害特性をアセスメントし、強度行動障害を引き起こしている環境要因を調整する支援
上記の2つです。
事業所職員全体の支援スキルを向上させて、チームで支援に当たることが重要です。
強度行動障害支援者養成研修等を受講しても、すぐに支援が出来るようになるわけではありません。
なぜなら人によって特性も環境も違うからです。適切な支援のためにはそれぞれ違った特性や環境要因を的確にアセスメントすることが必要です。
アセスメントは一朝一夕で出来るようになるものでもないため、外部の専門人材の助言も受けながら事業所内でアセスメントが実施できる人材を育成してくことが求められます。
現場の支援で中心的存在となる中核的人材(仮称)
的確にアセスメントできる現場支援の中核的存在が中核的人材(仮称)です。
中核的人材はチーム支援の要となる人材であるため、
中核的人材に求められる知識
強度行動障害支援者養成研修で学ぶ標準的な支援を軸として、
・自閉スペクトラム症の特性、学習スタイル
・構造化
・機能的アセスメントの実施
・アセスメントからの特性の見極め
・家族との信頼関係の構築
・特性を生かした支援の提案
これらが求められます。
中核的人材は各事業所に居るイメージで検討されています。
より高い専門性を持つ広域的支援人材(仮称)
強度行動障害の状態である方に対して事業所内での支援が必要とはいえ、事業所だけでは対応しきれないケースも想定されます。
そこで、現場の中心である中核的人材(仮称)に対して指導や助言が出来る、高い専門性を持った広域的支援人材(仮称)の育成が必要と検討されています。
広域的支援人材に求められること
・中核的人材としてのスキル
・支援プログラムの組み立て、記録
・支援の実行・評価等の支援マネジメントのスキル
・現場の支援チームの人的環境や事業所の物理的環境を含めた組織アセスメント、組織マネジメントスキル
・中核的人材を含めた支援チーム職員への心理的支援のスキル 等
上記のスキルが求められます。
広域的に支援を向上させていく広域的支援人材は都道府県などの広域で必要な数を想定して育成をすることが求められます。
強度行動障害支援者養成研修については↓こちらで解説しています。合わせてご覧ください。
3.ニーズの把握は市町村の役割
強度行動障害の状態にある方を支援するために自治体の力も不可欠です。
市町村の役割
・本人と家族の支援ニーズの適切な把握
・地域の取り組みの実態把握
・中核的人材や広域的支援人材との連携
・支援に繋がれていない本人と家族のフォロー
・障害、高齢、生活困窮、教育、子育て等部署間連携
市町村はこれらの役割が求められます。
地域の調整役としては基幹相談支援センターも大きな役割を担います。相談支援事業所の後方支援をしつつ、困難ケースには直接かかわっていくなどの対応も考えられます。
4.日常を支える支援体制は必須
在宅で生活している方を支える福祉サービスを安定的に供給出来る体制の整備が重要です。
グループホーム(共同生活援助)
グループホームは入所施設と比較して少人数であるため、支援や環境を個別化しやすく特性に合わせやすいというメリットがあります。
また、通所サービスや行動援護も柔軟に利用できます。
しかし少ないスタッフで対応していることも多いので、強度行動障害に対応できない事やスタッフの負担が増えすぎてしまうことも懸念されます。
障害者支援施設
入所施設は入所定員も多いため、特性に合わせた環境調整が難しい面があります。
しかし、支援者はグループホームに比べて手厚い配置になっているため支援の基本を守って統一した支援を行うことで、効果的な支援につなげることもできます。
障害者支援施設には強度行動障害の方を入所させて支援する他に、在宅ケースの緊急的なショートステイの受け入れや、本人が望む生活形態への移行支援なども求められます。
地域生活支援拠点
地域生活支援拠点等は、地域で暮らす障害者の緊急時の支援や、障害者支援施設や病院からの地域生活への移行支援を行うことが求められており、本人とその家族が地域で安心して生活する上で重要な役割・機能を担っています。
支援対象者のニーズを把握しておくなど、地域によって適した支援の形を検討して体制づくりを進めていくことが必要です。
5.状態が悪化したときの「集中的支援」
強度行動障害は状態を示す言葉です。状態ですので、変化していくものであり行動が激しくなるなど悪化する事も考えられます。悪化した際には常に関わっているチームの他、自立支援協議会も活用するなど地域全体で集中的に支援することが必要です。
集中的な支援の取り組みとして
▶広域的支援人材(仮称)による集中的なコンサルテーションの実施
▶施設入所やグループホーム、ショートステイを活用して一時的に環境を変えて、支援方法を整理。(その後の移行支援も含む)
上記が検討されています。
それらの取り組みは都道府県や圏域などの広域的な支援体制が必要となります。
もちろん集中的な支援によって状態が安定したとしても、市町村が継続的にフォローしてくことが大切です。
6.予防のためには早期支援
強度行動障害の支援を積み重ねていく中で、思春期に行動がかなり顕著となるパターンが見られています。
強度行動障害の状態を予防するためには、
3歳児健診等で、重度の知的障害を伴う自閉スペクトラム症のあるこどもの中で特に
▶睡眠の問題がある
▶こだわりが強い
▶衝動性がある
といったこどもを把握して、早期にこどもと家族への支援を開始することが重要です。
そのために教育・保育・医療・福祉が連携して隙間のない支援体制の構築が欠かせません。
7.医療との連携も大切
強度行動障害は対応の仕方や環境によって状態が変化するものであり、医療だけで治療できるものではありません。
特性の理解とアセスメントに基づく基本的な支援を進めつつ、薬物療法を行うなど連携した支援が必要です。
また、強度行動障害を有する者への医療面での支援について、日常生活の場で必要な支援が提供されて家族支援にもつながることから、主治医と相談しながら訪問看護を活用していくことも考えられます。
それらの支援のためには入院中から福祉と連携するなど、強度行動障害についての理解や福祉との連携について医療側の理解を深めることも求められます。
下の資料は、報告書の概要版にある地域支援体制のイメージ図です。
これまで触れてきた内容が支援体制のイメージとして示されています。
まとめ
強度行動障害の方を支援するためには特性の理解やアセスメントに基づく支援が基本となります。
検討会では、事業所内の支援の軸となる中核的人材(仮称)と広域で支援を向上させていく広域的支援人材(仮称)の育成が検討されています。
事業所、市町村、都道府県、医療、教育それぞれの役割を理解して地域体制を構築してくことが必要です。