令和6年8月に「障害児支援におけるこどもの意思の尊重・最善の利益の優先考慮の手引き」が作成されました。
障害があるこどもは、特性等によって自分の意見を表明することが難しい場合も多いです。
障害児支援の中で、こどもの意志が尊重されて最善の利益につながるようにこの手引きは作られました。
こどもが権利の主体として、人権が守られ意思が尊重されるよう障害児支援に関わる方はしっかりと理解しましょう。
1.こどもの権利を考える上で理解すべきこと
まず最初に理解すべきは手引きの基となっている考え方です。
「こどもの権利条約」
「こども基本法」
「こども大綱」
これらはこどもの権利について示されているものです。
手引きは、これらの考え方が基になって作られています。
手引きの内容をしっかりと理解するためにも、これらの法律等についての理解も深めましょう。
2.こどもの意志を尊重した取り組みの進め方
こどもの意思を尊重した取り組みの進め方には流れがあります。
これらを1つ1つ丁寧に進めていくことが大切です。
「こどもの育ちの理解・こどもとの信頼関係の構築」
障害児支援に携わる方は、こどもの育ちについて理解することが必要です。
愛着形成の構築や、年齢や発達の段階に応じた経験などを通してこどもが自らをエンパワメントして本来の自分の力を発揮しようとしていこうとする力を引き出す支援が求められます。
また、信頼関係の構築に必要なのは「傾聴」です。
こどもの想いをしっかりと受け止める姿勢が必要です。
そしてこどもの想いを受け止めるということは、何か特別な場面ではなく日常の中の些細な事柄から行うことが大切です。
「何をしたい?」
「どう思った?」
日ごろからこどもの気持ちを聞くことで、「この人は自分の気持ちを大切に思ってくれている」と感じてくれることでしょう。
手引きには生活の中における意識や遊びの工夫などもいろいろ記載されていますが、私が考える信頼関係構築に一番大切なことは、こどもだろうが障害があろうがそんなことは関係なく一人の人間として尊重した対応をするということです。
傾聴については下記の記事も合わせてご覧ください。
「意思形成支援」
意思が形成されるためには、こどもが多くの経験をすることが大切です。
いろいろなことを知って、体験することで「もっと知りたい」「やってみたい」という気持ちが育っていきます。
また、細かいことであってもこどもが選択できる機会を多く持ちましょう。
おやつや活動の場面など、小さくてもひとつひとつの選択の機会が、選ぶという経験となります。
出来るだけ
「自分で選んだ」
「自分で決めた」
と思えるような機会を設けることが大切です。
「意思表出支援」
意思は表出することで初めて、他者に伝わります。
意思表出支援は形成された意志が言葉やそれ以外の方法で表出されるように工夫を行う支援です。
障害があるこどもの意志は、誰にでもはっきりわかるように伝えることが難しいことも多いです。しかし、こどもはこどもなりに自分の意志を何らかのサインで伝えています。
《サインの例》
- メニューによって食べるスピードが違う
- 特定の音楽が流れると、体を揺らす
- 特定の場所に入りたがらない
支援者は言葉で伝えられないからわからないではなく、こども達の言動から意思の表出を理解することが大切です。
また、意志を出しやすくするために障害特性に応じた配慮も必要です。
言葉だけでなく絵や文字を使った「カード」を使用したり落ち着ける環境設定など、こどもが安心して気持ちを表現できるよう配慮しましょう。
「意見形成支援」
意見形成支援はこどもが自らの意思を伝えられるよう、伝えたいことを意識化・言語化できるよう支援することです。
《支援の例》
- こども達が司会や進行を務める会議の場を開催して自分たちのことを自分たちで考えて話し合う場をつくる。
- 言葉でのコミュニケーションが苦手な場合、文字でのコミュニケーションなども提案する。
障害児通所支援を利用するこどもは、自分の気持ちを整理したり表現することが苦手なことも多いので、十分に時間をかけてじっくりと話を聞きながら想いを整理するサポートが必要になります。
「意見表明支援」
これまでの支援を通して把握できたこどもの関心などを踏まえた上で、こどもがその想いを言語化したり表現したりするための支援が「意思表明支援」です。意見を表現することが難しい場合、内容を確認した上でこどもの希望に応じてその意見を代弁して伝えることも必要な場合もあります。
「意見実現支援」
意見実現支援はこどもが表明した意見を実現するための支援です。
自分の意見を大人が聞いてくれる、その意見が実現するといった経験の積み重ねが「意見を言ってよかった」「また、聞いてほしい」という思いにつながっていきます。
しかし、こどもの意見にすべて応えることが必要ということではありません。
判断能力や経験が備わっていないこどもの意見が、客観的に見て必ずしも「こどもの最善の利益」とならないと思われるケースについては、回避する必要があります。
できないことはできないと伝える。
これらを伝えることも、こどもの育ちを支える上では大切です。
その代わり「なぜできないのか」という理由を、こどもが理解できるように伝えて代替案を一緒に考える。といった丁寧な対応は欠かせません。
3.取り組みを進めるにあたっての留意点
手引きには事業所においてこどもの権利擁護についての取り組みを進めるにあたっての留意点が示されています。
①職員のこどもの権利擁護に関する意識の向上
②職員の知識・技術等の向上
③こどもの権利擁護に関する組織体制の整備
④こどもに対する権利擁護に関する説明等
⑤こどもの権利擁護に関する支援の記録の作成・保存・活用
⑥関係機関・関係者との連携
⑦事業所・施設運営へのこどもの参画
⑧障害児入所施設の生活単位・活動単位の小規模化
上記の項目に沿って留意点が示されています。
私が一番大切だと考えるのは、「こどもの権利擁護に関する意識の向上」です。
こどもの権利擁護はなぜ必要なのか、障害児支援の役割などを最初にしっかりと職員が理解しなければ、取り組みは進みません。
絵に描いた餅にならないために、必要性について理解をしましょう。
まとめ
障害児支援に関わる方は、子どもの権利条約などこどもの権利に関する考え方を理解した上で
「意思形成支援」
「意思表出支援」
「意見形成支援」
「意見表明支援」
「意見実現支援」
これらを丁寧に進めていくことが大切です。
また、取り組みを進めるためにはこどもの支援に携わる方がこどもの権利擁護の必要性をしっかりと理解することが必要です。
こどもが健やかに成長するために、私たち支援者に求められていることを理解して取り組みを進めていきましょう。