令和4年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)が令和5年12月20日に公表されました。
※この調査は障害者虐待防止法を受けて、各都道府県の対応等に関する状況を年度ごとに調査して公表するものです。調査結果は「養護者による虐待」と「障害者福祉施設従事者等による虐待」の2つに分かれています。この記事では福祉事業所スタッフ向けに「障害者福祉施設従事者等による虐待」の調査結果をご紹介いたします。
令和3年度の障害者虐待事例への対応状況等の調査結果を下記記事で解説していますが、その時も過去最多とご紹介しています。
残念ながら令和4年度の調査結果でも虐待判断件数を中心に各数値が、過去最多を更新する結果となってしまいました。
障害者虐待の現状をしっかりとご理解いただくために、ぜひご覧ください。
1.令和4年度も過去最多を更新
福祉施設従事者等による障害者虐待の推移です。
虐待件数の調査が始まってから基本的には右肩上がりに増えています。
令和4年度は
相談・通報件数 4,104件 虐待判断件数 956件 被虐待者数 1,352人
令和3年度と令和4年度のそれぞれの数値を比較すると
相談・通報件数は28%増加 判断件数は37%増加 被虐待者数は41%増加
ちなみに令和2年度から令和3年度の増加率は
相談・通報件数は12%増加 判断件数は11%増加 被虐待者数は7%増加となっています。
全ての数値で過去最多を更新していることは言わずもがなですが、増加率も倍以上となっています。
相談通報件数に対する虐待判断件数の割合は、23%と令和3年度と変わらない数値となっています。
調査を始めてから最大の増加率です。
支援を提供する立場として、現実を知り対策を講じていかなければなりません。
2.虐待者の職種は生活支援員の割合が増加
こちらは福祉事業所従事者等による障害者虐待の細かなデータを示している資料です。
資料の左下にある市町村等職員が判断した虐待の発生要因(複数回答)を令和元年度からと並べて比較してみると下記の通りです。
市町村等職員が判断した虐待の発生要因 | 令和元年 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 |
---|---|---|---|---|
教育・知識・介護技術等に関する問題 | 59.8% | 71% | 64.5% | 73.6% |
職員のストレスや感情コントロールの問題 | 55.3% | 56.8% | 54.8% | 57.2% |
倫理観や理念の欠如 | 53.6% | 56.1% | 50% | 58.1% |
虐待を助長する組織風土や職員間の関係性の悪さ | 16.2% | 22.6% | 22% | 31.8% |
人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ | 24.2% | 24.2% | 24.7% | 31.4% |
すべての発生要因が増加していますが、「虐待を助長する組織風土や職員風土や職員間の関係性の悪さ」「人員不足や人員配置の問題及び関連する多忙さ」といった組織が主に関係する要因も3割を超えていることは気になるところです。
障害福祉の仕事に携わる上で必要な「理念」については↓こちらで触れています。
また、虐待者(虐待をしてしまった方)の職種をみると、世話人や管理者の割合は昨年度より下がりましたが生活支援員の割合が44.4%と上がっています。※令和3年度の虐待者の中で生活支援員の割合は37.2%
直接支援する立場である生活支援員からの虐待増加も、組織風土や多忙さといった組織的な要因の上昇が無関係ではないと思います。
虐待を個人で防止することは限界があり、組織で防止することが必要です。
決して個人の支援方法や感情表出などのせいにせず、チーム支援で虐待の発生を防止する方法を考えなければいけません。
管理者として「虐待を許さないという明確な組織としての意思表示と体制整備」
サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者として「適切な支援提供のためのチーム作り」
支援者として「支援の質の向上のための自己研鑽」
それぞれの役割における取り組みが求められます。
福祉事業所における障害者虐待の主な要因と対策は↓こちらをご覧ください。
資料の下段中央にある障害者虐待の事実が認められた施設・事業所の種別を見てみると、昨年度同様生活全般を支援する障害者支援施設やグループホームの数値が高くなっています。
虐待の構成割合では
障害者支援施設 22.4%(令和3年度20.9%) 共同生活援助(GH) 26.4%(令和3年度23.2%)
この2つが20%を超えており、昨年度から割合も2~3%程度増加しています。
生活をする施設は、外部から見られにくいことや、生活全般を支援するための利用者と支援者の関係性のゆるみなど環境面から虐待の発生リスクが高いと考えられます。
また虐待等による死亡事例は2件ありましたが、発生した事業所の種別は「共同生活援助(GH)」1件・「短期入所」1件、そして両方とも「知的障害」がある方への「身体的虐待」となっています。
生活全般を支援する施設こそ、虐待発生リスクの高さを理解し、それに対しての対策を取っていく必要があります。
まとめ
障害福祉事業所スタッフからの障害者虐待は、調査を開始した平成24年度から増加の一途をたどっています。
虐待はある日突然起こるものではありません。
必ず虐待につながる芽(不適切な支援の継続、職員間のなれ合いなど)があり、それが芽の段階で摘み取られないことで虐待に至ります。
あなたの提供している支援は胸を張って、本人の意思を反映していると言えますか?
支援者は虐待をしてしまうリスクを抱えている立場であるということをあらためて理解して、もう一度自分たちの支援を見つめなおしてみましょう。
「障害者虐待防止法」については↓こちらで解説しています。合わせてご覧ください。
「通報義務」については↓こちらで解説しています。合わせてご覧ください。
「障害者虐待の防止と対応の手引き」については↓こちらで解説しています。合わせてご覧ください。