障害児通所支援は、平成24年度から約10年で事業所数などが飛躍的に増加しています。
身近な地域で支援が受けられるようになってきていますが、同時に適切な運営や支援の質の確保などいろいろな課題もあり、障害児通所支援が担うべき役割や機能、対象者など、今後の障害児通所支援の在り方が検討されています。
この記事では令和3年10月に出された検討会の報告書の内容をわかりやすく解説していきたいと思います。
障害児サービスを提供している方は今後の事業運営の参考に、
障害児サービスを利用している方は、利用している事業所がこういった方向性に沿っているかどうかを判断できるようになるために、
今後の方向性を理解していただける機会となるかと思いますので、ぜひご覧ください。
・障害児通所支援の現状と課題
・障害児通所支援に今後求められていくこと
1.障害児通所支援の現状

平成26年度から令和元年までで障害児サービスの利用児童数は約2.3倍、費用は約2.8倍と増加しています。増加している大部分は児童発達支援と放課後等デイサービスです。

また、上記データを見ると支援が必要な子どもも多くいると考えられるため、現在児童通所支援を利用している子どもだけではなく、ニーズが潜在化している可能性も高いです。
児童期から適切な発達支援を受けて成長していくことは、安心感や自尊心等を育むことで持てる能力を発揮できるようになったり、成人後の生きづらさの軽減や予防につながることであり、社会全体としても大切なことです。
そのために今重要なことは障害児通所支援が提供する支援の質を上げていくことです。
2.今後の検討に向けて基本的な考え方
これまでの障害児支援に係る検討の基本理念(障害児本人の最善の利益の保証、家族支援の重視、インクルージョンの推進等)を大切にした上で以下の考え方を大事にしながら検討しています。
3.児童発達支援センターの在り方
児童発達支援センターは「障がいの重度化・重複化や多様化に対応する専門的機能の強化」を図った上で、「地域における中核的な支援施設」として一般の「事業所と密接な連携」を図るものとされています。
だけど、現在の児童福祉法や指定基準にはこのような役割や機能は明確に書かれていないため、本来児童発達支援センターに期待されている役割や機能が発揮されるような構造になっていないという課題があります。
また、児童発達支援センターが1カ所以上設置されている市町村は35%(令和元年度末時点)となっており、まだまだ数も少ないです。

ちなみに障害児福祉計画の基となる厚労大臣が出す基本指針(R3~5)には各市町村の児童発達支援センターの設置が記載されているので児童発達支援センターの設置はこれから推進されていくと思います。
児童発達支援センターは地域における中核的な支援機関として、以下のような役割・機能を担うべきものであることを、児童福祉法や指定基準において明確化することが必要。それに併せて報酬体系も検討する方向。
○幅広い高度な専門性に基づく発達支援・家族支援機能
様々な課題を抱える障害児と家族に対して、必要な支援ができるよう専門職を配置するなど高度な専門性を確保
○地域の障害児通所支援事業所へのスーパーバイズ・コンサルテーション機能
地域の児童発達支援や放課後等デイサービス事業所へアセスメントや計画作成、支援方法等に関する専門的な助言を行う
○地域のインクルージョン推進の中核としての機能
インクルーシブな子育て支援の推進として保育所等訪問支援として保育所等に障害児支援の専門的支援の助言を行う
○地域の障害児の発達支援の入り口としての相談機能
「気付き」の段階から障害児に対して発達支援の入口としての相談機能と、他領域を含む支援内容全体のコーディネート機能
「福祉型」と「医療型」の統合
平成24年の児童福祉法の改正で障害児通所支援は体系を一元化したが肢体不自由児施設は支援内容の一つとして「治療」が行われることのニーズを踏まえ、児童発達支援センターは肢体不自由児のみを対象とした「医療型」とそれ以外の子どもを受け入れる「福祉型」が設けられていました。
しかし
・医療型の児童発達支援センターが近くにある方は医療と支援を一体的に受けられるが、近くにない場合は児童発達支援センターで支援を受けて、リハビリ等の医療は別の病院で受ける形となっている。
・医療型の児童発達支援センターが近くにあっても、肢体不自由児以外は利用できず、遠くの事業所に通わないと支援を受けられない。
といった課題もあり
障害種別にかかわらず身近な地域で必要な発達支援が受けられるようにするため「福祉型」「医療型」の区分をなくして、一元化の方向で検討されています。
4.児童発達支援・放課後等デイサービスの役割・機能の在り方
児童発達支援
具体的な役割や支援内容は、「児童発達支援ガイドライン」(平成 29 年7月 24 日 策定)において示されており、提供すべき支援を大きく分けると「発達支援(本人支援及び移行支援)」、「家族支援」及び「地域支援」となっています。
また、ガイドラインの内容を踏まえつつ、各事業所の実情や個々の子どもの状況 に応じて不断に創意工夫を図り、提供する支援の質の向上に努めることが求められています。
現状として児童発達支援事業所の支援内容や提供時間について2つのパターンが見られています。
・比較的長時間・生活全般にわたり、総合的な支援として児童発達支援を利用する
・保育所や幼稚園等に生活の主軸を置き、スポット的に児童発達支援を利用する
その中で学習支援のみだったりピアノや絵画のみの指導など、ふさわしくない支援等もあるという指摘も挙げられています。


児童発達支援の役割・支援内容はガイドラインに沿った内容を求められています。
・4つの役割(本人支援・移行支援・家族支援・地域支援)
・5領域の支援(「健康・生活」、「運動・感覚」、「認知・行動」、「言語・コミュニケーション」、「人間関係・社会性」)
新たな方向性としては
○新たな類型
総合支援型(仮称) 5領域全体をカバーして重点を置くべき支援内容を決めていく。児童発達支援の基本形。
特定プログラム特化型(仮称) 専門性の高い有効的な発達支援(PT、OT、ST等)を特化して行う。
○人員基準と報酬の在り方検討
提供時間の長さや家族支援も評価として報酬の検討。※支援時間は子どもの障害特性や年齢等により、短時間から始める必要性も考慮して検討
○運営基準の検討
有効な発達支援と判断できない場合等は、給付費の支給対象としない方向。
これからはよりガイドラインの内容に沿った支援が求められています。
児童発達支援ガイドラインについてはこちら↓でわかりやすく解説しておりますので、御覧ください。
放課後等デイサービス
放課後等デイサービスは児童福祉法で以下のように示されています。
第6条の2の2
3 放課後等デイサービスとは、学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)第 一条に規定する学校(幼稚園及び大学を除く。)に就学している障害児につ き、授業の終了後又は休業日に児童発達支援センターその他の厚生労働省令で 定める施設に通わせ、生活能力の向上のために必要な訓練、社会との交流の促進その他の便宜を供与することをいう。
引用:児童福祉法(昭和22年法律第164号)
現状として
児童発達支援と異なり、支援時間の長短には一定の傾向があるとも言えますが、対象年齢が就学児全体であることもあり、支援内容については、児童発達支援以上に様々となっている可能性があります。
また、報酬の対象と考えた場合に、必ずしも相応しくないと考えられる支援等が行われているという指摘については、児童発達支援よりも多くの指摘が寄せられています。



放課後等デイサービスの基本的役割
「①子供の最善の利益の保証」 「②共生社会の実現に向けた後方支援」 「③保護者支援」
これらの基本的役割を踏まえた上で、
「①自立支援と日常生活の充実のための活動」 「②創作活動」 「③地域交流の機会の提供」 「④余暇の提供」
上記を組み合わせて支援を行う事が必要です。
新たな方向性としては
○ガイドラインの見直し
本人支援の内容(小低・小高・中・高の4段階を想定)の記載、家族支援 等
○新たな類型
総合支援型(仮称)と特定プログラム特化型(仮称) ※児童発達支援と同様
○人員基準と報酬の在り方検討
提供時間の長さや家族支援も評価として報酬の検討。 ※児童発達支援と同様
○対象児童の検討
放課後等デイサービスの対象を専修学校や各種学校に通学している児童も含むよう検討(市町村長等が認める必要あり)

「放課後等デイサービスガイドライン」には、児童発達支援ガイドラインと違って学齢期の障害児の発達支援(本人支援)の内容について、詳細が示されていないので、今回の検討で見直しが必要とされました。
5.インクルージョンの推進について
障害児支援は、その専門的な知識・経験に基づいて一般的な子育て支援施策をバックアップする後方支援として位置づけることが必要とされています。
○地域の中の役割分担・連携体制
児童発達支援センターは保育所等訪問を活用して子育て施策の後方支援を行う。児童発達支援や放課後等デイサービスは、市町村やセンターと連携して幼稚園や放課後児童クラブなどで安心して過ごせるよう移行支援を行う。
○児童発達支援や放課後等デイサービスでの推進
保育所や幼稚園、放課後児童クラブなどへの移行支援が進むよう、効果的な標準的手法を提示していくとともに、適切な報酬上の評価を検討。
○保育所等訪問支援
ケースに応じて支援対象・方法等の違いがけっこうあると考えられるため、適切に評価されるよう報酬の評価の在り方を検討。
○一体的な支援
児童発達支援等と保育所等で、障害の有無に関わらず、一体的な子どもの支援を可能とする方向で、必要な見直し・留意点等を検討。
6.その他
その他、全体にかかる部分や、市町村等の判断について以下のように検討の方向性が示されています。
○調査の指標や給付決定プロセスの見直し
給付決定で勘案する障害児の状態の調査指標(いわゆる「5領域11項目」。日常生活動作の介助の必要度が中心)では、障害児に必要な発達支援のコー ディネートが困難と考えられるため、当該調査指標や、給付決定プロセスを見直す
○事業所指定判断の検討
事業所の指定(総量規制の判断)に当たって、一定地域のみ事業所が増えるなど偏りの解消、重症心身障害・医療的ケア等に対応した事業所の不足等を解消するため、障害児福祉計画における給付量の見込みに当たり、より狭い圏域や、支援が行き届きにくいニーズに目を向けた見込み方の検討
○障害児通所支援全体の質の底上げに向けて
センターが地域の中核となって、
①地域の事業所に対する研修や支援困難事例の共有・検討
②市町村や自立支援協議会との連携
③各事業所の自己評価・保護者評価の結果の集約を通じた事業所の強み・弱みの分析・改善(地域の関係者等も参画)
④事業所の互いの効果的な取組の学び合い
等の取組みを進める方向で検討
まとめ
障害児通所支援の現状と、それを踏まえて今後の方向性について検討された内容を解説させていただきました。
様々な内容について検討されていることがご理解いただけたかと思います。
触れられなかった内容で付け足すと、児童指導員という呼称についても「指導」ではなく「支援」という表現が適しているのでは?という意見もあり、そういった部分も今後深められていると思われます。
サービスを正しく提供するためにも、
サービスを有効的に活用するためにも、
方向性についての理解は必要です。
今後の方向性を理解して、みんなが今よりも幸せになれる支援のあり方を考えていきましょう。