子どもの権利を大きく侵害する児童虐待については、
児童虐待の防止等に関する法律(以下 児童虐待防止法)が2000年11月に施行され、これまで数回の改正が行われてきました。
しかし、実際の児童虐待対応件数は右肩上がりとなっており、「令和2年度児童相談所での児童虐待相談対応件数」をみると、20万件を超えて過去最多となっています。
そんな現状の中で、「子どもの権利擁護に関するワーキングチーム」が設置され、
令和元年12月~令和3年5月まで11回開催して、子どもからの意見も直接聞きながら、子どもの権利擁護について検討されてきました。
この記事では、検討内容をまとめた「子どもの権利擁護に関するワーキングチーム とりまとめ」をわかりやすく解説していきたいと思います。
基本的な考え方
児童福祉法では子どもは単に保護される客体として存在するのではなく、権利を享有し行使する主体であり、一人の独立した人格として尊重されなければならないことが明らかにされています。
この考えが子どもの権利擁護に関するいろいろな仕組みをすすめていくうえで、常に基本とされることが大切です。
1.子どもの意見表明権の保証
「私たち抜きに私たちのことを決めないで」(Nothing about us without us)というメッセージがあるように、子どもの最善の利益を優先して考慮した福祉の保障を実現するためには、子どもが意見を表明する機会が確保されて、その意見が適切に考慮・反映される環境が整えられることが必要です。
しかし子どもは、自分の意見を出すことへの抵抗感や精神的な不安定、年齢等による言語での意思表示が難しい場合などが考えられます。
だからこそ、
・子どもが意見表明するうえでの障壁を取り除く
・子どもの状態についての深い理解
・言語やそれによらない意見の表明を理解しようとする姿勢
・年齢・発達の程度・障害の状態等に応じた支援
これらをできる者が子どもの意見表明を支援する仕組みも合わせて構築することが必要です。
(1)個別のケースにおける意見表明
里親や施設に措置・一時保護される場面や、自立支援計画(児童養護施設などで児童ごとに作られる自立のための計画)を作るときはもちろん、日常生活においても子どもの意見を積極的に聞くことが必要です。そのために、相談を受け付ける窓口を明確にしたり子どもに関わる職員が研修等を受けて、子どもの意見を聞く上での基礎的な態度等を身につける取り組みも重要です。
また、ワーキングチームの検討の中では意見表明支援において意思表明支援員の配置についても検討されています。
(2)政策決定プロセスへの子どもの参画
子どもから「自分たちのためではなく大人が仕事をしやすいようにルールを作られていると感じる」といった意見もあり、子どもに関する物事を決定する際にはより良い制度やルールに変えていくためにもそのプロセスに参加するということが大切です。
参加するものとしては子ども家庭福祉の政策決定プロセスや社会的養育推進計画作成のプロセスなどが考えられます。
具体的には社会的養護のもとで暮らす子ども・経験者を、都道府県等の諮問機関 (児童福祉審議会等)の委員として任命したり、会議に参加してもらい意見を聞いたり、子ども・経験者へのヒアリングやインタビュー調査によるニーズ把握を支援の枠組みに組み込むなど、常に子ども・経験者の視点が制度・政策に反映されるような仕組みを設けておくことが必要です。
2.権利擁護の仕組み
(1)こども家庭福祉分野での個別の権利救済の仕組み
仕組みとして考えられるのは児童福祉審議会です。児童福祉審議会はすべての都道府県等にすでに設置されているため体制整備に手が付けやすく、早めに仕組みを作れるというメリットがあります。
逆に、対象が児童福祉法の中に限られ、学校で起こる問題など子どもの権利全般を扱うことは難しくなるなどのデメリットもあります。
自治体ではこうしたメリット・デメリットを踏まえたうえで、権利擁護の仕組みを検討することが必要です。
児童福祉審議会以外にも別の子どもの権利擁護機関を条約に基づいて設置し、権利救済の申し立てを受けて調査・審議・勧告を行ったり、子どもからの相談を受けたりと言った取り組みが行われている自治体もあります。
国としては先行してこう言った取り組みを行っている自治体をモデルとして提示するなど、他の自治体の参考になるような対策をしていくことが必要です。
(2)子どもの権利擁護機関としてあるべき制度
国のコミッショナー(・オンブズパーソン)
国における子どもの権利擁護機関(コミッショナー・オンブズパーソン)の機能としては、
・ 子どもの権利や利益が守られているか、行政から独立した立場で監視すること
・ 子どもの代弁者として、子どもの権利擁護の促進のために必要な法制度の改善の提案や勧告を行うこと
・ 子どもの権利に関する教育や意識啓発等を行うこと
など、国や自治体のシステム全体へ働きかける機能が考えられます。
出来れば子どもの権利全般を対象としてこれらの機能をもつ国レベルの権利擁護機関を設置することが必要ですが、国レベルでコミッショナー(・オンブズパーソン)を創設する場合には省庁横断的な検討を重ねる必要があります。
こういった省庁を超えて、検討や取り組みを行う必要があるから「こども庁」の必要性が叫ばれているんですね。
自治体のコミッショナー(・オンブズパーソン)
日本ではすでに複数の自治体においてオンブズパーソン等の子どもの権利擁護機関があることから、そうした取り組みをさらに発展させていくことも大切です。
自治体の中では個別に対応した経験の蓄積を活かして、年次報告等の形で政策への提言をしたり、学校に出向いて子どもの権利に関する周知・啓発活動を行ったりしている所もあります。
イメージ
また、ワーキングチームの中で子どもの権利擁護の枠組みについて下記のようにイメージ化されています。
3.評価
行っている取り組みは、きちんとできているかどうかPDCAサイクルのように評価をして、修正をしていくことが大切です。
社会的擁護の質を評価するうえでは、施設や保護所で生活している子どもに意見を聞くことは欠かせません。
さらに聞き取りをする際には、子供が意見を出しやすくする工夫が必要です。
また、児童養護施設などは第三者評価を受けることが義務付けられていますが、児童相談所は努力義務となっています。令和2年度時点で第三者評価を受診した児童相談所は全体の4%、一時保護所は全体の24%と第三者評価が定着しているとはいいがたい状況です。
特に一時保護所は目が届きにくい環境でもあるため、第三者評価を義務化することも検討する必要があります。
まとめ
子どもの権利擁護に関するワーキングチームの検討内容を解説させていただきました。
虐待対応件数からも、早急に子どもの権利擁護についての取り組みを進めていかなければいけないことがわかると思います。
国の将来を担う子どもが健やかに育つためにも、まずは子どもの権利擁護には何が必要なのかを理解して、これからの取り組みを進めていきましょう。
ワーキングチームで行った子どもからの意見聴取の概要のリンクも貼っておきますので、興味のある方はご覧ください。