医療的ケア児者の生活の状況はどうなっているの?
医療的ケア児者がいる家庭が抱えている困難さを具体的に知りたい
そんな疑問にお答えできる調査が行われました。
医療的ケア児者の家族が抱える課題等を把握するための調査が行われ、報告書が令和2年3月に出されています。
調査内容は膨大で、生活実態調査としてWEB調査(定量調査)、事例調査、自治体調査と3つあり、報告書は252ページにわたっています。
それらすべてに目を通すのは大変ですよね。
今回は生活状況の把握ということでWEB調査(定量調査)に絞ってご紹介させていただきます。
しかし、それでも100ページを超えるボリュームとなっていますので、すべてをご紹介することはできません。
そこで、WEB調査の中で私の視点で大切だと思われるポイントをご紹介させていただきます。
1.調査(WEB調査)の概要
目的 | 医療的ケア児者の家族が抱える課題等を包括的に把握するため |
調査対象者 | 全国の在宅で暮らす20歳未満の医療的ケア児の家族の方 |
実施期間 | 令和元年11月18日〜11月30日 |
回答状況 | 843件 |
2.調査結果
a.必要な医療的ケア
必要としている医療的ケアについて回答を見ると経管栄養(経鼻・胃ろう・腸ろう)が最も多くなっています。
それに続いて吸引(気管内、口腔・鼻腔内)が約70%、他にも酸素吸入や人工呼吸器管理などで30%を超えています。
b.日々の生活上の課題
医療的ケア児者の家族が抱える⽇々の⽣活上の課題や困りごとを見ると、一般的な家庭との違いが明らかに見られると思います。
特に上部3点「慢性的な睡眠不足」「自分が医療機関を受診できない」「外出が困難」については当てはまるとまあ当てはまるを足すと60%を超えており、医療的ケア児者の家族が抱える共通的な課題と言えると思います。
c.悩みや不安
悩みや不安については「いつまで続くかわからない日々」「緊張の連続」が多く、生活自体が綱渡り状態であることがわかります。自分が見ていないと命を落とすかもしれないと言った緊張感は、想像を超えるものだと思います。
また、きょうだい児(障害があるきょうだいがいる子ども)についても、不安は大きいです。障害がある子どもにどうしてもつきっきりになってしまったり、意識が強く向くことで寂しい思いをさせてしまっていると感じることも多く見られます。
親にゆとりがないことで、きょうだい児にも及ぼす影響は小さくないと思います。
d.付き添い
登校や施設・事業所を利用するときに付き添いが必要か?の問いに当てはまる、まあ当てはまるの回答が60%を超えています。
医療的なケアが必要なために幼稚園や学校での付き添いや保護者がその場所で待機を求められることが多く、保護者が気を抜く時間が少ないことがわかるデータになっています。
学校や施設・事業所での専門職確保の促進が必要ですね。
e.利用しているサービス・利用したいサービス
現在利用しているサービスから見ると、居宅介護・短期入所・児童発達支援・放課後等デイサービスあたりが多くなっています。
(※相談支援はサービスを使うために利用するということもあり、今回は触れません)
障害児支援において医療的ケア児の受け入れ事業所も少しづつ増えてきているようです。
利用したいサービスとしては、圧倒的に緊急一時預かり支援となっています。
やはり綱渡り状態で緊張感を持った生活をする上で、家族に何かがあったときの預け先が最も求められるサービスであることがわかります。
f.家族が日々の生活で行いたいこと
行いたいことを見ると、医療的ケア児者がいる家族がいかに当たり前の生活を送れていないことがわかります。
自分の時間もなく、自分の健康や楽しみは後回しになっている現状と、家族で過ごす楽しい時間を求める気持ち。
切実な思いがひしひしと伝わってきます。
3.報告書からの提言
調査結果から医療的ケア児者がいる家族が抱えている困難さや不安などがありありと感じられると思います。
では、そういった現状を変えるためにどういった取り組みが求められているでしょうか?
報告書に記載されている提言から見てみたいと思います。
【国、自治体に対する提言】
「医療的ケア児者」の定義設定、手法の検討
適切な支援を考えるためにはニーズの正確な把握が必要です。
「医療的ケア児者」の定義を一律にすることと、具体的な把握方法の検討が求められます。
行政窓口の対応の工夫、必要な情報の提供・共有
家族の外出の困難さを踏まえた、きめ細やかな対応や必要な福祉サービスについての情報がきちんと提供されるよう積極的な情報発信も大切です。
医療・行政・福祉等の連携も忘れてはいけないポイントです。
「医療的ケア児者」の個別の状況に対応できる専門職(医療的ケア児当コーディネーターなど)の配置、育成
調査した段階で医療的ケア児当コーディネーターを配置している市区町村は3割程度。まずは対応できる専門職を増やしていくことが求められます。もちろん増やすだけでなく、役割を明確にしていくことも同時進行で必要です。
自治体職員や専門職の認識、理解の促進
「医療的ケア児者」はまだまだ社会的に知られてはおらず、家族が地域で孤立している現状もあります。
まずは障害福祉や医療等に係る自治体の職員や専門職が医療的ケア児者とその家族の実態を認識することが必須です。
そこから認知を広げていくことが大切です。
【サービスに対する提言】
サービス資源の充実
サービスについては、市区町村と家族の約80%が不足していると感じています。すぐに増やせるものではないですが、増やしていくための対策を検討していくことが必要です。
緊急時に受け入れ可能なサービスの充実
先程の調査結果でも見ていただいた通り、利用したいサービスで圧倒的に緊急時一時預かりの希望が多いです。
何かあったときに対応してもらえるかどうかがわからないことで、生活がより不安になります。
自宅訪問型のサービスや医療型の短期入所などの利用ができるようにサービスを促進していくことが求められます。
家族、きょうだい児等の状況に応じた預かり資源の充実
きょうだい児に目を向けられていないという不安を感じているように、家族状況によって必要なニーズは異なります。
サービスの提供と合わせて、伴走型の支援を行うことが出来る人材の育成が必要です。
「医療的ケア」があることによる「付き添い」負担の軽減
医療的ケアがあることによって付き添いが必要なケースが多いことは、調査結果でご紹介した通りです。
家族の負担を軽減するための対応が求められます。
「ひとり親家庭」への支援体制の構築
ひとり親家庭は家事や育児などの負担を分担する子が難しく、他の人に頼れないことで孤立してしまうこともあります。
子どものサービスだけでなく生活全体を支える支援を考えていくことが大切です。
情報の共有
入院、未就学、就学等ライフステージの変化に伴い関係機関も変化します。
同じ情報をいろいろな人に伝える負担をなくすためにも、円滑に情報共有できる仕組みの検討が必要です。
4.まとめ
医療的ケア児者とその家族の生活の実態について調査結果に基づいて解説させていただきました。医療的ケア児者は定義も不明確であり、行政等でも現状を正確に把握しきれていません。
そのため必要な支援を検討しきれていない面もあり、まずは現状の把握をしたうえで、必要な支援体制の構築が必要です。
今回はWEB調査に絞って解説させていただきましたが、事例調査等にも知っていただきたい事例が載っておりますので、是非この記事を見て深く知りたいと感じた方は医療的ケア児者とその家族の生活実態調査報告書をご覧ください。
また、医療的ケア児支援法についてはこちら↓で解説していますので、ぜひご覧ください。