障害者虐待防止法では、「正当な理由なく障害者の身体を拘束すること」は身体的虐待に該当する行為とされています。
障害が有る無しに関わらず、すべての人々には自分の意志で行動して生活する権利がありますが、身体拘束はその自由を奪ってしまう行為です。
この記事では「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」に記載されている内容を中心に、身体拘束についてわかりやすく解説させていただきます。
また、「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」の全体的な内容についてはこちらの記事↓で解説しておりますので、ぜひ合わせてご覧ください。
支援の中で行っている行為が、身体拘束に当たるものではないかどうか
やむを得ず身体拘束を行う時に、必要な手順を踏んでいるか
といったことを確認いただければと思います。
1.身体拘束とは
身体拘束は虐待の5類型の1つ、身体的虐待に当たる行為です。
身体的虐待には殴る、蹴るといった暴力的行為の他、正当な理由のない身体拘束も含まれます。
障害者虐待について詳しくはこちらの記事↓で解説しております。合わせてご覧ください。
2.身体拘束禁止の対象となる具体的な行為
身体拘束に当たる具体的な行為は上記のとおりです。どれも障害がある方の行動の自由を奪う行為です。
障害がある方に対して、いつの間にか上記のような行為を行ってしまっているということはないでしょうか?
支援の中で行っている行為が、実は身体拘束に当たる行為だったということがないように、正しく理解することが必要です。
身体に重度の障害がある方の中には、四肢、関節等の変形・拘縮等の進行により、身体の状態に合わせた座位保持装置や車椅子を医師の意見書又は診断書等からオーダーメイドで製作して、使用している場合もあるよね。
そういったのも身体拘束に当たるのかな?
それらのベルト等は本人の座位保持や安全確保のために必要なものでもありますよね。
すべてを一律に身体拘束と判断するのではなく、本人の状況と必要性を照らし合わせて使用する時間や頻度などを考えることも必要だと思います。
3.やむを得ず身体拘束を行う場合の3要件
身体拘束を行う際には3つの要件が示されています。
「身体拘束とは」の部分で説明した、正当な理由に当たるのがこの3要件です。
その要件は、切迫性・非代替性・一時性です。この要件は3つとも満たす必要があります。
切迫性だけ、一時性だけ要件を満たすということでは身体拘束が必要とはみなされません。
身体拘束を行う場合は、この3つの要件を満たしているかどうかを考える事が必要です。
切迫性とか、非代替性とか言葉は少し難しいですが、わかりやすく言うと「緊急の場面でその時だけ、そうするしかない」時のみ身体拘束が必要とみなされるいうことです。
4.やむを得ず身体拘束を行う場合の流れ
身体拘束を行う際には上記のような流れが必要です。
1つずつ説明していきたいと思います。
組織による決定と個別支援計画への記載
身体拘束が必要かどうか、3要件に当てはまるかどうかはスタッフ1人の考えで決定することではありません。1人のスタッフがいくら必要性を感じていても、組織としてチームとして検討をして、決定をしない限り、身体拘束は必要と認められません。
個別支援会議等において、管理者やサービス管理責任者、児童発達支援管理責任者、さらに虐待防止担当者などが出席して検討をする事が必要です。
場合によっては相談支援専門員なども含むことでより客観的な視点での検討が行なえます。
会議で身体拘束が必要と決定された際は、
個別支援計画等に身体拘束の態様及び時間、緊急やむを得ない理由などを記載しておくことが必要です。
本人・家族への十分な説明
やむを得ず身体拘束を行う場合は、流れの中で適宜利用者本人や家族に十分に説明をして、了解を得ることが必要です。
身体拘束が何故必要なのか、どういった場面でどういった行為を行うのかといったことをわかりやすく説明します。
身体拘束を行うということは、本人や家族に大きなショックを与えることも考えられます。
同時に、身体拘束を将来的に無くしていくための取り組みなども同時に説明していくことで、本人や家族は少しでも前向きに捉えていただけるかと思います。
行政への相談・報告
やむを得ず身体拘束を行う場合、市町村の虐待防止センターなど行政に相談や報告をして身体拘束を含めた支援について理解を得ることも必要です。
行動障害など支援が困難なケースは事業所で抱え込まず、関係機関と連携することで様々な視点から助言や情報を得ることもできます。
「自分たちがやらなければ」と抱え込むことで、虐待につながることもあります。
適切な支援のためにも、虐待を防止するためにも、支援に困難さを感じたときには他機関と連携することが大切です。
また、行動改善の取り組みなども他機関と共有することで事業所内の計画的な取り組みの推進にもなります。
必要な事項の記録
身体拘束を行った場合には、必要な事項を記録する必要があります。
記録は今後の支援を検討していくための重要な材料です。
課題にフォーカスした適切な記録は、身体拘束をなくしていく支援のためには欠かせません。
手間がかかりすぎる記録は避けなければなりませんが、できるだけ正確、的確な記録をすることが必要です。
身体拘束の禁止と記録については「障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準」でも定められています。
5.身体拘束廃止未実施減算
先程紹介したとおり、人員、設備及び運営に関する基準に身体拘束等の禁止が定められており、やむを得ず身体拘束を行う場合の流れを行っていないと上記の「身体拘束廃止未実施減算」で報酬が減算となります。
もちろん減算されるからやらないということではなく、「国が減算を前面に押し出すくらいやってはいけない行為であると示している」という認識が大切です。
身体拘束の実際と、身体拘束未実施減算の効果などについてはこちら↓を御覧ください。
まとめ
身体拘束について、要件や流れなど解説させていただきました。
障害がある方の支援の困難さから、どういった支援が適切かわからずに、身体拘束など虐待に当たる行為が行われ、それが日常的に継続されることで支援者が麻痺し、より重大な虐待案件につながることはこれまでの虐待案件の分析から見られる傾向です。
支援を行う上で、本人の権利を侵害しないために身体拘束の廃止は必要な取り組みです。
被害者も加害者も出さないために、正しい理解をした上で適切な支援につなげていきましょう。
障害者虐待の状況については↓こちらをご覧ください。